ゴー宣DOJO

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切通理作
2012.6.4 11:06

自民党とネトウヨの関係

 2006年、小学館時代の「わしズム」で、私は『くたばれ!ネットウヨ』という原稿を書きました。ネット上の嫌韓ブームに差別と排除の匂いを感じ、警戒心を持ったのでした。

 その頃、まさに「ネトウヨ」であったakio71さんという人が『かつてネトウヨであった「私」から、今ネトウヨである「あなた」への手紙』という文章をご自分のブログで書いています。

 非常に興味深い文章でした。
 http://d.hatena.ne.jp/akio71/20120526/p1

 この人はもともと、日韓ワールドカップで隣国だと改めて認識したという位の韓国への関心でしたが、職場の上司から、韓国人や在日がいかに反日であるかをまとめた動画を見せられ、「嫌韓」にハマッていきます。

 [韓国に興味もなければ、接点もなかった私は、「面白ネタ」として、それらを受け止め、よくわからないけど怖い人達が身近にひそんでいるものだなあ、と、ぼんやり受け止めました。私の記憶では「嫌韓」は、当時のネットユーザーお気に入りの遊びのひとつでした。]

 まだネット自体がいまよりマイナーだった時代、韓国についてネガティブに、面白おかしく語ることは、ネット上での流行だったのです。

 やがてこの人は「反日」的な事件当事者の家族に韓国人がいるという噂を聞いて「韓国というのは反日なのだ」という確信を持ち、「中韓は日本の敵」という思いを強めていきます。そしていわゆる「ネトウヨの人々が集まる、2ちゃんねる極東板」を頻繁に読みに行く習慣がついたのです。

[そこには、「嫌韓」で「愛国」な人々が集っており、韓国や中国を笑い、糾弾し、それにくらべて日本は素晴らしいと讃えるエピソードが、日々、さまざまな人々によって提供されました。国内国外のニュースがあれば、誰かが「これは反日勢力の工作で」「この議員は売国で」「この影には皇室のお力があって」などなど、解説をしてくれました。ありとあらゆる事情通が集まり、思わせぶりな予言が行われ、韓国や中国に関わるものがちょっとでも損をしたら、みなで指をさして笑い、喜び、少しでも韓国や中国に関わった日本人がいれば「実は在日」「中国のハニーとラップにかかった」「金のために国を売った」と罵倒し、蔑みました。]

 akio71さんは自分自身が高校時代までに、実は在日のクラスメイトが何人もいて、なんら問題もなく「ただのクラスメイト」として日々を過ごしていたことすらも完全に忘れていました。

  [自分と直接、関係のない人間。自分の家族でもなければ、隣人でもない人間を、一方的に侮蔑し、罵倒し、悪いことが起きれば彼等のせいにし、良い人間は「彼等ではない、自分達の同胞」であるとする]

 そんなネトウヨ時代の自分を「自分達はなにも努力をせずに、自尊心を満たせること」に酩酊していたと振り返ります。

 akio71さんは当時、職場や家庭で大きなストレスを抱えていたそうです。

 [ストレスの源をどうにかする方法は「会社を辞める」か「家を出る」しか、当時の私には思いつかず、ネトウヨとして誰か、自分とは縁もゆかりもないがゆえに、完全に自分が正義の側に立てる相手を、あげつらい、笑い、糾弾し、いずれ彼等は滅びるのだと信じ、実際には自分の味方などしてもくれないような相手を「日本人」で「愛国」で「親日」だから信頼できるとすがり・・・・・・]

 いまから振り返れば、自分は現実逃避に酔っていたと語ります。

 
 やがて当時の福田元首相、麻生元首相、森元首相などの演説、コメントに夢中になります。

 [長年、国会議員を務め、首相にまで上り詰める人間です。週刊誌やテレビでどうあざけられていようとも、そこには知性があり、カリスマがある。これまで、政治に触れておらず、免疫がなかった私は、ころりといきました。しかも彼等は「ネトウヨ」であった私の味方である「愛国者」なのです。]

 選挙での自民党の敗退は、ネトウヨの人々を団結させる結果になったといいます。

 [数年前はマイナーな存在であったネトウヨは、ネット上の「暇な若者層」を中心に、増えていきました。]

 このakioさんの自己分析は興味深いですね。ネトウヨのメジャー化は、自民党の敗退とシンクロしていたというのですから。

 片山さつき議員がネトウヨにアピールしようとお笑い芸人の実名を上げて告発しようとした最近の事例をみても、自民党の側にも、ネトウヨに接近しようとしている動きがあることは伺えます。

 商店街をシャッター街と化し、TPPで農業を見放し、中間層を崩壊させサラリーマン層の基盤を崩してきた自民党は、逆に言えば、彼らの安定した支持基盤を失いつつあるのかもしれません。その代わりに頼みにするのが「ネトウヨ」だったのでしょうか。

 しかしakio71さん自身は、ネトウヨのメジャー化と反比例して、違和感を抱きはじめていきます。

 [「すべて日本人のせい」「日本を悪く言うことは『愛国無罪』だから悪くない」そう中国や韓国の人々は語り行動するといわれていた。ネトウヨが集う場で、まったく同じように「すべて中国や韓国のせい」「あいつらを悪くいうのは『愛国心の現れ』だから悪くない」と、繰り返される罵倒と侮蔑。はじめて鏡に映った自分を観たように、私は驚き、少しずつ、極東板や愛国ブログから、離れていきました。]

 韓国で働く親しい友人から、日本に対して複雑なものを抱えながらも、反日一辺倒の国ではない韓国を知ったことも大きかったようです。

 しかしakio71さんがネトウヨからはっきり決別したのは、自民党がきっかけでした。

 著名人の講演会に友人を連れて行ったら、その実それが自民党地方支部の決起集会であったということに不信感を持ったり、自民党ネットサポーターズの結成記念集会で発言する陶酔しきった若者達に嫌気がさしていきます。

[自民党議員と民主党ほか与党議員、どちらのほうが有能に見えるかといえば、これまでの実績の分、自民党議員だと言いたくなります。けれど、個々の状況や事象について、彼等を支持することはできても、「日本人で」「愛国で」「親日」だから、何であろうとどのような状況であろうと、支持を続けることは、私にはできない。異論を唱えれば「韓国面に墜ちた」と言われ「ネトウヨならこうであるはず」と規範を定められ、身内同士を褒めあい、身近な他者を罵倒し続けることは、熱から醒めた私には、できませんでした。]

 akioさんは気付いてしまったのです。

 ネトウヨは自身の頭でひとつひとつの事項を考えているのではなく、自分に都合のいい人間だけが「仲間」になるように、線を引いているだけではないのか、と。

[線の外の人間は、悪であり、間違っていると思い込み、仲間内のルールで罵倒し石を投げる。仲間内でうまくやっていくため、すべては「正しいこと」だと、確認しあう。いずれは仲間内で監視しあい、少しでも異なる点があれば、糾弾したたき出す。]

 正義のためという名目で、日常の場では発散しづらい攻撃衝動のはけ口に「仲間ではない奴等」を利用していただけではないのか・・・・・・と。

 [「仲間」だけが善良で、すべての悪しきことは「奴等」か「奴等に魂を売った人間」だ、そうした価値観の人々とは、肩を並べたくない。]

 そう思ってネトウヨをやめたakioさんは、今も「ネトウヨ」である人に向けて、こう語りかけます。

[もし、今、高揚感や充足感が、ネトウヨである時にだけ味わえるのであれば。ネトウヨであることで、あなたが気持ち良く、楽しくなっているのであれば。「考え、判断する」前に「こうあるべきだから」と、心が一方向にだけ条件づけられているのであれば。ひとつ、深呼吸してみてください。「仲間のみんなが言っているから」以外に、その気持ちや判断の理由はありますか?]

 おりしも、トッキーさんが昨日6月3日、新宿駅南口で吉本興業所属芸人の親族による生活保護不正受給問題に対するデモを行っていた「在日特権を許さない市民の会」が、騒音に抗議しようとした老人を取り囲んで殴る蹴るの暴行を加えた映像がネットにUPされているのを、「オススメではないけれど見てほしい動画」として紹介してくれました。

 この映像をたまたま記録して、UPした人はこうテロップを付けています。
「自分の正義に酔っぱらった人間がいかに愚かしく、いかに醜いものであるか、ご覧ください」
 http://www.youtube.com/watch?v=z1eLBCgEhy8

 まさに、akio71さんが指摘するような「自分の正義に酔った人間」の所業が、ここに見えます。

 映像を見る限り、この老人が一瞬目の前に立ちはだかっただけで、彼らは瞬時に「敵」と判断しています。

 引き倒し、よろめきながら介助されて立ち上がったところを「このくそおやじが突然突っ込んで来たんですよ」「ふざけんじゃねえ」「舐めてんじゃねえぞ」と追い打ちをかけます。

 「そんな大きな声を出さなくてもいいだろうって言ったら、いきなりやられた」と老人は述べています。

 老人は線の外にいる、排除の対象とみなされたのです。

 

 この老人に対して、翌朝ネットでは「朝鮮人だ」という噂がたてられています。また不正受給が疑われる芸人に対しても「朝鮮人じゃないかという噂が一部で立っている。そういう噂が立つのは仕方ないんですよ。障害者福祉年金も受給できない人がいるんですよ。おにぎり食べたいと言って死んでいく人がいる」と在特会は演説しています。

 これは、「都合の悪いことは○○の陰謀」と決めてかかる、akio71さんも指摘する思考方法そのものです。
 始めに線の外にある人間をそうだと決めつければ、理屈は後からいくらでもついてくる。検証不能な噂はいくらでも増殖する。

 そんなネトウヨ的世界認識と、一部でも共役関係になってしまうことのおそろしさを、自民党の議員はちゃんと認識しているのでしょうか?

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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